デス・オーバチュア
第138話「冒涜の雷魔装(らいまそう)」





「ヒャハッ!」
「はああっ!」
ダルク・ハーケンの左拳とランチェスタの右拳が中空で激突する。
ランチェスタは右拳を引き戻すと同時に左拳を突きだし、ダルク・ハーケンは左拳を引き戻すと同時に右拳を突きだした。
先程と同じように、ダルク・ハーケンの右拳とランチェスタの左拳が正面から衝突する。
「ヒャハハハハハハハハハハハッ!」
「あたたたたあああああっ!」
ダルク・ハーケンの両拳と、ランチェスタの両拳による、無数の乱打が弾幕のように互いに打ち消し合っていた。
「ちっ互角かよ!?」
「今のところは……ねっ!」
全身から、それぞれ、黄色と青の雷を放電しながら、互角の打ち合いは続く。
「けっ!」
「ふん!」
ダルク・ハーケンとランチェスタが、互いの背後の空間に浮いていたギターと十字架を、掴み取り相手に叩きつけたのは、まったくの同時だった。
爆発するような轟音と衝撃と共に、ギターと十字架がぶつかり合い、中空で停止する。
正確には止まっているわけではない、鍔迫り合いのように、互いの武器を押し合っているのだ。
押し合う力がまったくの互角であるがゆえに、二人の動きは完全に停止しているように見える。
『ちっ!』
二人はまったく同時に、後方に飛び離れた。
もし、タイミングが少しでもずれていたら、遅れた一方は体勢を崩して隙をさらしていただろう。
「へっ、まあ、拳も武器も互角……ってわけか?」
「その楽器……魔黒金(まこくきん)ね。ゼノンの剣や鎧と同じ魔の極限の金属……」
「ああ、そうだ。苦労したぜ、これだけ良質で大量の魔黒金を手に入れるのは……てめえら、魔族と違って魔界に住んでいるわけじゃねえからよ」
ダルク・ハーケンは答えながら、ギターを派手にかき鳴らした。
魔黒金とは魔界にのみ少量存在する、破聖(はせい)、破神(はしん)……とでもいった神聖な力や存在を打ち破る力を持つ金属である。
破魔、破邪を基本とする神銀鋼と対極の金属だった。
「銀が聖なる金属なら、金とは魔と欲望を象徴する悪しき金属……まして、魔黒金の禍々しさは普通の金の比じゃない……」
魔族……魔の属でありながら、神銀鋼を使うランチェスタこそが異端なのである。
本来、魔族や悪魔といった魔属に相応しい、自らの力を高め、活かす金属は魔黒金だった。
「ああ、そうさ、こいつはオレの魔力を注がれることで、本来の強度以上の強さを持ち、注がれたオレの魔力を何倍にも高める……それに比べて、てめえはどうだ?」
ダルク・ハーケンのギターが青く放電する。
「吸魔だか、封魔だか知らねえが、魔力を蓄えることこそできても、魔力を増幅することも、魔力で強化されることもねえだろう?……そいつとてめえの力は反対の性質なんだからよ」
「案外、口数多いのね……そんなゴチャゴチャとした理屈はわたしの知ったことじゃないわよ!」
ランチェスタは嘆きの十字架を手裏剣か何かのように投擲した。
「ちっ!」
ダルク・ハーケンは飛来した十字架を、ギターで辛うじて上空に打ち上げる。
「体勢崩しすぎよ! 雷撃(サンダーボルト)!」
ダルク・ハーケンの眼前に出現したランチェスタは雷を纏った右拳を打ちだした。
「ちぃぃっ!」
ダルク・ハーケンは迫る右拳に、左足を蹴り込んで、拳を踏み台にするかのように、上空へと逃れる。
「エレクトリックパ……ちっ!?」
ダルク・ハーケンがギターから電撃を撃ち出すよりも速く、彼の背後から嘆きの十字架が襲いかかった。
ダルク・ハーケンは二段ジャンプ……空中で再度跳躍し、背後からの襲撃を紙一重で回避する。
嘆きの十字架は、ランチェスタの左手に吸い込まれるように戻った。
「確かに、嘆きの十字架は魔属にとって最適な武器じゃない……だけど、魔属に『対して』は最強の武器になるのよ!」
対魔属用の武器を魔属が使うというこの矛盾。
ランチェスタはその矛盾ゆえの強さを持つ数少ない魔族(魔属)だった。
「雷嵐(サンダーストーム)!」
遙か彼方の天空から、無数の落雷が降り注ぐ。
「ちっ!」
ダルク・ハーケンは雷を鋭敏に避けながら、床に着地した。
彼は翼でもあるかのように、空中で自在に動けていたのである。
「そろそろ、『翼』ぐらい見せたら、四枚の悪魔さん?」
黙って二人の死闘を、聖書片手に眺めていた修道女が突然そんなことを言い出した。
「ああっ!」
ダルク・ハーケンは余計な口出しするなといった感じで、修道女を睨みつける。
「タナトスちゃんと違って、ランチェスタちゃんはあなたが『本気』で戦ってもいい相手よ。そう『変身』すらしていい相手……」
「けっ! オレ様のことを何でも知っているって口振りだな……」
「ええ、私はあなたが知らないあなたのことまで知っているわ〜」
「ちっ、気に食わねえ女だ……だが、てめえは後だっ!」
ダルク・ハーケンはランチェスタに視線を戻した。
「もう話は済んだの?」
ランチェスタは腕を組んで、地面に突き立てた十字架に寄りかかっている。
ランチェスタは、ダルク・ハーケンの注意が修道女に向いていた隙を狙うなどという姑息なことはしなかった。
「ああ、待たせて悪かったな。うるさい観客が居たんでな……」
「別にいいわよ。それより、切り札があるならさっさと使いなさいよ……じゃないと、出す前に倒しちゃうわよ」
「……そうだな、じゃあ、遠慮なくそうさせてもらうぜっ!」
ダルク・ハーケンは弾けるように、空高く跳躍する。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
ダルク・ハーケンは己が体を強く抱き締めると絶叫した。
ダルク・ハーケンを中心に、暴風のように、魔力と青い雷が放出される。
「ガアアッ!」
ダルク・ハーケンの背中から巨大な蝙蝠のような翼が生えた。
四枚……バツ字に交差するような漆黒の翼が羽ばたく。
「魔力が……数段上がった……!?」
「まだまだ、これからだぜっ!」
ダルク・ハーケンは右手で懐から黒い宝石を取り出した。
「フラックスディシクレイション! 魔装雷(まそうらい)!」
ダルク・ハーケンが宝石を天に翳すと、青き雷光が爆発するように彼の姿を包み込む。
「くっ、自爆? いや、違う……」
青き雷光が晴れると、姿を激変させたダルク・ハーケンが姿を見せた。



「……待たせたな」
地上に降臨したダルク・ハーケンは、鎧と拘束着が混じったような装甲を全身に身に纏っていた。
ダルク・ハーケンの全身は常に激しい青い電光を迸らせている。
「ご大層な『変身』ね……中身のないハリボテじゃないか確かめてあげるわっ!」
ランチェスタは電光石火の動きで、一瞬でダルク・ハーケンとの間合いを詰めた。
「百雷……」
「遅せえよ」
拳を放つ直前、ダルク・ハーケンの姿が消えたかと思うと、背後からの衝撃でランチェスタは吹き飛ばされる。
「くっ……」
ランチェスタは吹き飛びながらも、背後を振り返った。
だが、そこにはダルク・ハーケンの姿はない。
「だから、遅すぎるって言っているだろう!」
ダルク・ハーケンの声の発生と共に、ランチェスタは横合いから思いっきり殴り飛ばされた。
ランチェスタは壁に激突し、砕けた壁の瓦礫に埋もれてしまう。
「悪いが時間がないんでな……さっさと終わりにさせてもらうぜ」
部屋の中央に姿を見せたダルク・ハーケンの右掌に青い雷が集束し始めた。
「メガ・シャウト!」
ダルク・ハーケンは右掌に掌サイズの雷球を生み出すと、ランチェスタが埋もれている場所へ撃ちだす。
「……くっ、来い、嘆きの十字架っ!」
瓦礫の中から姿を見せると同時にランチェスタは嘆きの十字架を呼び寄せた。
ランチェスタを庇うように前面に降臨した十字架と青き雷球が接触する。
次の瞬間、凄まじい爆発と閃光が周囲を埋め尽くした。



「っつ……何よ、この爆発力……?」
嘆きの十字架の真後ろにいたランチェスタ以外の周囲の床や壁が無惨に吹き飛んでいた。
「ふん、流石は神銀鋼製の十字架だな……良く耐えた」
ダルク・ハーケンは再び右掌にメガ・シャウトを生み出していく。
「させるかっ!」
ランチェスタは十字架を床から引き抜くと同時に、十字架の長い方の先端から、雷弾を発砲した。
しかし、雷弾は、ダルク・ハーケンの左側に派手にそれて床に着弾する。
「……どこを狙っているんだ、てめえ?」
爆発した雷弾の爆風に髪を靡かせながら、ダルク・ハーケンは呆れたように言った。
「つっ! だから飛び道具って嫌いなのよ!」
ランチェスタは十字架を半回転させて短い先端を前方に向けると、ダルク・ハーケンに飛びかかる。
「消えな」
ダルク・ハーケンの右手からメガ・シャウトが解き放たれた。
ランチェスタは十字架を盾のように自らの前面に展開させる。
メガ・シャウトと嘆きの十字架が接触し、先程と同じ凄まじい大爆発が発生した。
「降雷(サンダー)!」
爆発の向こう側のダルク・ハーケンに雷が天から落ちる。
ダルク・ハーケンは直前で、バックステップし落雷をかわした。
落雷を認識してからかわすなど非常識な行為だが、ダルク・ハーケンにとってはさほど難しいことではない。
今のダルク・ハーケンは雷……すなわちランチェスタより数段速いのだ。
「ちっ、盾にした十字架を踏み台にして上に逃れたか……」
爆発が晴れると、そこにランチェスタの姿はなく、嘆きの十字架だけが浮いている。
「雷光神槍(ライトニングスピア)!!!」
遙か上空からの叫び声と共に、巨大すぎる雷の槍がダルク・ハーケンを狙って降下してきた。
「ふん……」
落雷を回避したダルク・ハーケンである、それより速度の劣る雷の槍などかわそうと思えば簡単にかわせる。
けれど、ダルク・ハーケンはあえて回避せず、メガ・シャウトを上空に放って迎撃することにした。
大爆発が天井(すでにランチェスタ復活の際に殆ど吹き飛んでいるが)を埋め尽くす。
「百の雷に貫かれろ! 百雷撃(ハンドレットサンダーボルト)!」
爆発の中から飛び出してきたランチェスタが雷を宿した拳を連続で放った。
だが、ランチェスタの拳は一発たりともダルク・ハーケンに届くとはない。
ダルク・ハーケンの全身を球状に包み込む青き電光の『バリア』によって全て遮られていたからだ。
「なっ!? 嘘よ……」
「なるほど、拳に雷を集めての乱打か……こんな感じか?」
バリアが消えると同時に、ダルク・ハーケンは雷を集束された右拳をランチェスタの全身に連続で叩き込む。
「きゃああああああああああああああああああっ!?」
ランチェスタは、ダルク・ハーケンの雷の拳は殆ど全て両手でガードはしたものの、威力は消し切れず、派手に吹き飛ばされてしまった。
「逝かせてやるぜ、神様の居ない天国にな……」
ダルク・ハーケンの両肩にそれぞれ埋め込まれている黒い巨大な宝石が青く美しく発光、放電、荷電されていく。
「アーク・ディバウア!!!」
ダルク・ハーケンの両肩から爆発的に解き放たれ青き電光が、一つの巨大な雷の大蛇と化すとランチェスタを呑み込み、今までのメガ・シャウトの数十倍の大爆発を巻き起こした。










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一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。



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